新庄徳洲会病院

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掲載日付:2024.05.09

Vol.279 例の本を読んでみました

 以前のコラムでも取り上げましたが、出版中止になったアビゲイル・シュライアー著『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』が、「トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇」として産経新聞出版社から発刊されました。本文は300ページを超え、本体価格も2300円ですが、タイトルもよりわかりやすくなりました。産経新聞出版社に感謝しつつ、発売早々に購入して読んでみました。

 まず感じたのは比較的読みやすい日本語になっていることです。翻訳書には内容の難しさとは別に、翻訳過程で文章に違和感が生じやすくなります。私も1冊だけ研修医向けのマニュアルを翻訳しましたが、英文で理解できても、日本語表現がうまくいかず苦労しました。また、本書は複数の翻訳者が担当しているので、単語や文体が統一しにくい問題も生じたはずです。このような問題が解決できたのは、監訳者の岩波明氏が、専門分野も似通っているベテランの精神科医である事に加えて、翻訳者間の意思の疎通を十分にとった証でしょう。

 あるネット番組で聞いた話ですが、海外在住経験の長い日本人の女性学者が、東南アジアのアメリカンスクールに10歳くらいの娘さんを通わせていた際に、欧米の同級生のすべてがLGBTのどれかに属していると言い、「あなたは?」と尋ねられました。彼女は賢明にも「よくわからない」と答えたそうですが、少なくとも数年前には欧米の知識人の子女の間では、少女が少年に興味を示すことは「ダサい」と思われていたのです。その話には衝撃を受けましたが、本書の内容は予想以上に米国での「性自認」が社会に大きな影響を与えていることがわかります。多くのトランスジェンダーの少女とその家族、トランスジェンダーを推進する活動家やそれに迎合する教師や医療関係者、それに対抗する人たちに取材を重ねた末の力作と言えます。

 LGBTと言っても性自認の先進国では、同性愛はダサいもので、トランスジェンダーこそがかっこいいとされています。女性を好きな女性はレズビアンではなく、トランス男性であるということです。「青色が好きなあなたは本当は男なのよ」と女児に教えるということが現実に起こっています。このような現象が流行して少女たちに伝染した結果、これまで圧倒的に少なかった思春期の少女のトランス男性化が過去十数年で数十倍になりました。思春期には身心が不安定になりますが、特に女性は感受性が強いので周りで起こったことを自分の中に投影しやすく、そのためか投身自殺したアイドルの後を追い、太っていないのに神経性無食欲症になるのは圧倒的に女性です。この時期に自分の性別に違和感を持つのは珍しくないでしょうが、心身の不調のすべての原因を「性別違和」とする風潮がトランスジェンダーになりたい少女を造っているのです。

 本来、性別違和は症状なのですが、病名になってしまい、しかも予防や治療する精神疾患とは捉えずに、学校や医療従事者が無責任に患者の言う事を聞き入れ、思春期ブロッカーと呼ばれる女性ホルモンが働かなくなる薬や、男性ホルモンを安易に投与し、乳房を切断する手術にまで誘導しているのです。「性自認」の流行は、かつての「聖子ちゃんカット」や「ルーズソックス」とは次元が違うのです。教育者や医療従事者が、特定の政治的な意図を持つ活動家に扇動された患者の言いなりになることは論外です。我が国でも今後このような現象が起こる可能性はあると考えるべきです。未来ある若者に危険な「性自認」を推進するLGBT理解増進法を成立させた国会議員の先生方におかれましては、どれほどご理解が進んでいるかは存じせんが、高額な給料でも裏金からでも2530円を捻出してこの本を購入しご一読してくださいますようお願いします。


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