新庄徳洲会病院

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掲載日付:2022.11.17

Vol.255 コロナのクラスターを経験して

 第7波では新型コロナの陽性者が激増し、多くの医療機関でクラスターが発生しました。地方の中規模病院である当院でも、患者さん64名と職員76名(全職員の1/4以上)が陽性となりました。病気自体は季節性インフルエンザ並みで、熱・喉の痛み・咳や痰・全身倦怠感が主な症状で、入院中の患者さんは、ほとんどが高齢で、癌・末期の認知症・脳卒中後遺症・腎不全などの基礎疾患がありました。陽性者のうち16人が亡くなりましたが、その平均年齢は86.8歳、1人を除いて後期高齢者で、唯一の例外の50代の患者さんも、重症の脳梗塞後で寝たきりになり、肺炎を繰り返して経管栄養の継続が困難で衰弱していました。16人の死亡診断書を見ると、新型コロナが直接死因と記載されたのは90代の患者さん1人で、もともと慢性の肺疾患が悪化して入院し、治療して落ち着いたところに、尿路感染を起こし、最後に新型コロナがとどめを刺したものでした。全ての患者さんが、「死が身近にある」状況で感染したと考えてよいでしょう。

 愛知県知事が8月の記者会見で、「第7波ではコロナ肺炎単独の原因で死亡した人はいない」と発言して話題になりましたが、私の印象も同じです。感染症法上の2類相当(実質的には1類に近い)にしたままで、第7波を迎えて現場は大きく混乱しました。陽性者に加えて濃厚接触の16名が出勤できなくなり、夜勤体制が組めず病棟を1つ閉鎖しました。感染者を隔離するために患者の大移動を行い、過剰としか思えない感染対策を行うことで業務の手間は激増しました。私も毎朝「レッドゾーン」と呼ばれる感染者の病室を回診しましたが、ここで1日中仕事をする職員の負担は大変なものです。その一方で、病院の機能は低下し、多くの患者が影響を受けました。リハビリ継続のために転院してきた90代の患者さんは、転院直後からリハビリができなくなり、身体機能が低下してしまいました。技師さんに相談して、私がレッドゾーン内で細々とリハビリを行いました。大したことはできませんでしたが、患者さんは泣いて喜んでいました。コロナ対策がもたらした最大の害は、「普通の医療」ができなくなったことです。そうせざるを得ないほどの病気ではないと多くの国民が感じていることは、最近の行楽地の混雑を見てもわかります。にもかかわらず、同じ体制で第8波を迎えようとしているのは正気の沙汰とは思えません。

 コロナの空床補助金を22億円も不正に受け取った病院もありますが、正当に受け取った病院でも財務状況が改善したことは、慢性の赤字体質だった多くの自治体病院が一気に黒字になったことからも明らかです。その一方で、我々のような地方の民間病院は、指定医療機関ではないので空床補償はなく、入院患者数が大幅に減少したために大きな赤字を出すことになりました。我々のような民間病院では、現状が続くと経営が成り立たたなくなる可能性があります。おそらくこれまでに100兆円以上の予算がコロナ対策に注ぎ込まれていますが、その有効性は検証されないまま、今後も継続されそうです。

 コロナ元年と言える2020年は、総死亡が前年を約8400人下回るという異例の事態でしたが、昨年は前年を約67000人上回るという戦後最高の伸びを示しました。そして今年は8月までにすでに最高の伸びを示した昨年をさらに71000人以上上回るという異常事態です。これはコロナ死だけでは説明できません。我々に必要なのは、一度立ち止まって考えることです。新型コロナをインフルエンザ並みの病気として扱い、過剰な補償を止めて、検査や治療薬はもちろんワクチンの無料化も中止すべきです。経済活動も過剰な支援は止めて制限を解除するだけでよいと思います。多くの人が困るような事態になれば変更すればよいのです。問題を一気に解決する魔法はありません。山で道に迷ったときはいったん引き返すのが原則だと思います。


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