新庄徳洲会病院

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掲載日付:2024.04.16

Vol.278 紅麹からコレステロールについて考える

 小林製薬の機能性表示食品である「紅麹コレステヘルプ」による健康被害で死者が出たということで、消費者庁は使用中止を呼びかけ、会社は自主回収を行っています。今のところこの食品と健康被害の関連は不明で、「プベルル酸」が原因物質かどうかもわかりません。結論が出るには数ヶ月以上かかると考えられています。発売以来数年が経過して突然このようなことが起こったことを考えると、製造過程で何らかの物質が混入した可能性もありそうです。特定保健用食品(トクホ)が、有効性と安全性について国が審議し、消費者庁長官が許可を与えるのに対して、機能性表示食品は、有効性や安全性の根拠に関する情報を消費者庁に届けて、事業者の責任で機能性を表示すればよいので、かなりゆるいものと言えます。

 この食品は特に悪玉コレステロールを下げると宣伝しています。一般にコレステロールは低いほうがよいと思われていますが、人体の細胞やホルモンなどの原料となる必要不可欠な物質です。善玉と悪玉という分け方にも問題があります。コレステロールは食品から摂取するものと体内で合成されるものとあり、前者が増えると後者は減ってバランスを維持します。悪玉コレステロールの本名は、低濃度のリポタンパク質(LDL)によって、肝臓から全身に運ばれるLDLコレステロールのことです。これは体内で大事な働きをするのですが、増えすぎると輸送途中に血管内に溜まって動脈硬化の原因となり、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことがあるので悪玉と呼ばれていますが、それは一部の過剰なLDLコレステロールなのです。それに対して善玉は、高濃度のリポタンパク質(HDL)によって過剰なコレステロールを全身から肝臓に戻すので、動脈硬化を防ぐ働きがあるためこのように呼ばれています。人間には善人と悪人がいますが、コレステロールに善悪はなく、誤解を招く表現です。健康診断で分類している国はほとんどないようです。

 健康診断でコレステロールが基準値を超えた人にはすべて、薬が必要というわけではではありません。そもそも基準値は健康な若者から算出されることが多く、高齢者に無条件に当てはめるべきではありません。日本動脈硬化学会では悪玉が140以上、善玉が40未満で脂質異常症と定義していますが、多くの医療機関では220以上になると病気に分類されます。確かに日本人で260以上の人は死亡率が高いという調査がありますが、その調査で死亡率が最も低いのは220〜259のグループです。また日本の別の調査では、心臓病による死亡率が高いのは、LDLコレステロールが男性で140以上のグループだけで、総死亡は全てのグループで差がありませんでした。さらにコレステロールが低いと脳卒中・心臓病・がんによる死亡が多いことが自治医科大学からの論文で指摘され、同様の報告は海外でも見られます。

 脂質異常症の治療薬として代表的な「スタチン」と呼ばれる薬は、1973年に遠藤章東京農工大学特別栄誉教授が青カビが作り出す物質が血液中のコレステロールを下げることを発見したことがきっかけで開発され、過去30年間で世界で最も使われたと言われています。米にカビを混ぜて発酵させた紅麹から作った食品にコレステロールを下げる働きがあっても当然かもしれません。検診でコレステロールが高いと言われた人が、医療機関にかかるのは面倒だし、健康食品を試そうという気持ちはわかります。そういう人をターゲットにした食品は他にも数多くあります。しかし、少なくとも日本人で本当にコレステロールを下げる薬を使ったほうが良い人は、実際よりもかなり少ないはずです。無駄な医療や無駄な健康食品が数多くあることは知ったほうがよいのですが、そのような無駄を省くという考え方が健康や命に関してはできないのが現状です。身体にいいものばかり摂っていると、身体を壊すことは少なくないのです。

掲載日付:2024.04.01

Vol.277 宝くじではギャンブル依存にならないか?

 メジャーリーグの大谷選手の専属通訳が、違法なスポーツ賭博で球団から解雇されたことが話題になっています。彼は「ギャンブル依存症」と認めているようですが、これは我が国でも社会問題となっています。厚生労働省は、特定の何かに心を奪われ「やめたくても、やめられない」状態になることを依存症と定義しています。依存性の高い物質や行為によって脳内にドパミンという物質が増加し快感が得られるだけでなく、ドパミンがなくなると不安や不快が強くなり、異常な行動に走る精神疾患の一種です。大事なことは原因となるものに関わらないことと、なってしまったら早めに治療を受けることで、一時的な金銭援助や厳罰では問題は解決しません。

 対象としては、アルコール・薬物・ギャンブルが代表的ですが、最近では若者を中心としたゲームも増加しています。ギャンブル依存というと、我が国では競馬・競輪・競艇などの公営競技やパチンコが対象となるイメージが強いのですが、意外なことに宝くじも原因になることが少なくないようです。宝くじは、非常に身近で人目をはばかることなく購入でき、人気タレントを起用したコマーシャルの影響もあり、悪いイメージもありません。宝くじを買ったことがある人は、60%以上という調査もあります。誰もがのめり込みやすいものです。久里浜医療センターの調査では、依存症の問題を抱える人が過去1年間に行ったギャンブルでは、パチンコについで2位です。パチンコは、ギャンブルではなくゲームというのが国の見解ですが、実際は宝くじと同様に気軽にできる博打で、掛け金の総額では群を抜いています。

 私はギャンブルには興味がなく、宝くじも買うことはありません。理由は、儲かる確率があまりに低く、当選が完全に偶然で決まることに魅力を感じないからです。販売所に「1等が出ました!」という張り紙がされているのを見かけますが、大当たりが出やすい店があるとすると、くじ自体がイカサマであることになります。宝くじが買った人に戻る割合(還元率)は、約47%です。例えると、総額100億円の宝くじを全部買い占めても、得られる賞金は47億円しかないということです。公営ギャンブルは70〜80%で比較的良心的ですが、これも海外のカジノが90%以上あることを考えるとずいぶん低いことになります。宝くじの収益の約37%は公共事業などに使われますが、公共事業は国や自治体の予算で行われるべきものです。散々税金を取った上に、さらに一攫千金を求める人から巻き上げているとしか思えません。

 日本では江戸時代に「富くじ」として始まり、寺の改修費に使われていましたが、江戸中期には禁止され、その後も行われることはありませんでしたが、昭和20年の終戦間際に戦費調達のために、「宝くじ」の名が使われました。戦後は復興資金として政府が行いましたが、その後は自治体が中心となり、オリンピックなどの国家的行事への協力の名目で行われ、高度経済成長とともに賞金も高額になりました。宝くじに限らず我が国のギャンブルには後ろ盾となっている管轄官庁があります。宝くじは総務省、競馬は農林水産省、競艇は国土交通省、競輪とオートレースは経済産業省、スポーツくじは文部科学省、そしてパチンコ・パチスロにはなぜか警察庁がついています。当然、ギャンブル業界は、管轄庁の役人の天下り先になっています。国とメディアが後ろ盾になって博打を推奨して、国民から金を巻き上げ、ギャンブル依存を放置している現状は憂うべきです。海外のカジノは一般社会と隔絶しているようですが、これを統合型リゾート(IR)として都会の真ん中に作る計画には反対です。ギャンブルは、厳格なルールのもとに民間が行う方が健全だと思います。パチンコ業界から北朝鮮に多額の資金が流れていることを日本人は忘れてはいけません。このような現実は中学校で教えたほうがよいと思います。

掲載日付:2024.03.13

Vol.276 牛のウンコで車を走らせる

 自動車メーカーのスズキは、早くから海外進出をしていましたが、特徴はアジア・アフリカ・南米の途上国が主な対象になっていることで、今では世界12カ国で四輪車シェアの1位を占めています。特にインドへは40年以上前から進出し、販売台数と売上高も国内を上回り、経営に大きく貢献してきました。そのインドで牛糞から自動車燃料を製造する国家的プロジェクトを進めていることを、産業遺産情報センター長の加藤康子(カトウコウコ)氏がネットニュースで紹介していました。この事業は、インドのスズキ製自動車燃料の70%を占める圧縮天然ガスの代替となる圧縮バイオメタンガスを発酵させた牛糞から製造するもので、2025年に4つの工場を稼働させるために40億円を投資します。牛10頭が1日に出す糞で、1台の自動車が1日走る燃料が賄えるので、3億頭の牛が飼育されているインドでは、3000万台も走らせることができる計算になります。

 この計画がうまくいくかどうかはわかりませんが、インドは自国の置かれている状況を理解し、国の利益のために理にかなった行動をしている点で、我が国より優れていると思います。インドの主たる電力は石炭火力で、脱炭素社会への移行にはあまり積極的でありません。ウクライナ戦争では西側諸国がロシアへの経済制裁を進める中で、石油を安くロシアから輸入するだけでなく、それを他国へ輸出して利益まで得ています。二酸化炭素が地球温暖化の原因と騒ぎ立て、再生可能エネルギーという意味不明の言葉を流行させ、山野を切り崩して自然災害を大規模化する危険を侵してまで巨大な太陽光パネルを敷き詰めたり風車を建設して、外国勢力やその手先となる政治家や経済人が潤う政策を進めるどこかの国とは大違いです。しかも、インドはバイオガスを生産すると、二酸化炭素の28倍の温室効果を持つメタンガスを減少させるので、地球温暖化にも貢献すると付け加えることを忘れません。良し悪しは別にして、実にしたたかです。

 我が国の電力源は、70%以上が火力発電ですが、その主力である石油の90%以上をペルシア湾岸諸国に依存するという非常に不安定な状況です。原子力発電は、福島第一原発事故の教訓を冷静に分析することなく、危険性を強調する勢力に押されて、稼働しているのは10基のみで、発電
量は太陽光にも抜かれました。休止中も冷却作業は継続しており、災害が起これば稼働中のものと同等の危険を孕んでいます。石炭火力発電は世界最高の技術を持ちながら、新規の発電所建設は地球温暖化につながるという政府の意向で銀行は資金の貸付を止めました。我が国は石炭火力を積極的に行うだけでなく、その技術を外国にも輸出すべきです。石炭は、我が国の技術で採掘しているオーストラリアから、安定した供給が期待できます。安価な電力を安定的に提供するためには、どの程度のリスクを受け入れるかということを考えた上で、取捨選択しなければなりません。それができないのは愚者か利権まみれの悪人です。核融合などの新たなエネルギーが開発されるまでは、火力と原子力を主力として、最終的には従来型の原子力発電を終息させるべきです。

 発火する危険性や効率の悪さから、西側諸国が電気自動車の推進にブレーキをかけ始めた一方で、我が国は地方自治体での導入を促進し、一般へは補助金を税金から出し続けています。確かに電気自動車は走行中は二酸化炭素を排出しませんが、生産から廃棄までの全期間を通して計算すると脱酸素にもなりません。電気自動車を最も多く生産している中国が、製造過程で利用している電力は、効率の悪い石炭火力発電です。電気自動車が本当に実用化するには、蓄電池の大幅な技術革新が必要です。我が国には乳牛と肉牛を合わせると390万頭いるそうです。牛舎で管理された糞の回収には手間が少ないので、30万台くらいの自動車燃料は賄えそうです。その時まで生きていたなら、私はスズキの軽自動車に牛のステッカーを貼って乗ろうと思います。


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