Vol.316 医療と介護の再統合
6月28日付の日本経済新聞は一面トップで、減少傾向が続いていた自宅で最期を迎える在宅死の割合が、2005年から増加に転じて12%から24年には16%と4ポイント増加していると報じています。顕著なのは老人ホームで、同時期に2%から12%に跳ね上がっています。逆に病院は80%から64%に低下しています。ただ、多死社会になり総死亡者が160万人を超えたため、実数は横ばいです。この流れは、衰えの目立つ高齢者を、入院医療から訪問や施設による介護へ移行させた政策に依るところが大きいと考えます。ただ記事にもある通り、在宅死の割合に地域差が大きく、24年の在宅での看取り率は、最高の神奈川が26.8%であるのに対して、最低の高知は4.9%と5倍以上の差があります。全体的に都市部が高く、地方が低い傾向が明確です。
この事実は、高齢者を自宅で看取る体制を地方では作りにくいことを示しています。地方では患者も医療や介護の従事者も数が少なく、自宅と病院や介護施設の距離が離れているということが大きな要因というのが、地方で20年以上関わってきた私の感想です。都会では自転車で15分の圏内に訪問診療を複数集められますが、地方では1件に車で片道30分以上を要することが珍しくなく、当地のような豪雪地帯ではそれが1時間になることもあります。このような異なる環境で、同じルールを適用して、同じレベルの医療や介護を求めるのは無理です。経営面でも、都会では高齢者の数が多く、医療と介護を棲み分けても経営が成り立ちますが、地方では人口減少が進み、高齢化率は高くとも、高齢者数はすでに減少し(当地も例外ではありません)、かつて造られた民間の介護施設は、経営困難のため減少し始めています。
2000年に制定された介護保険制度を期に、それまでも増加傾向だった老人保健施設が介護老人保健施設と名称を変えて雨後の筍のように一気に増えた記憶があります。寝たきりの高齢者をまとめて収容し、質の低い医療や介護を提供し、利益を出していたいわゆる老人病院に取って代わった印象があります。この制度改定以降、医療と介護を切り離す流れが確立したことは間違いありません。国民医療費に介護費用が含まれなくなったため、結果的には医療費も削減されましたが、現在では医療費50兆円・介護費12兆となり、合計金額は増加の一途です。今後は少なくとも地方では医療と介護を再び統合したほうが、質も向上し費用も抑制できるのでないかというのが私の考えです。そのためには、病院と様々な介護施設(介護老人保健施設や特別養護老人ホームなど)が物理的に隣接もしくは同一敷地内にあり、医者が簡単に行き来できることが望ましいと考えます。そのようにすることで、患者や医者の移動する負担は大幅に軽減し、同じ患者を継続して同じ医者が診ることも可能になります。救急搬送などの緊急事態も手間が軽減するので、患者や家族だけでなく、医療側や行政側にも大きな利益があります。
そのためには中規模の病院と施設が統合し、ある程度の急性期医療から、リハビリを含めて慢性期の医療と介護のための設備と人員を確保しなければならないので、民間では経営面にもスタッフの確保にも多くの困難を伴い、自治体では赤字を出すことには国の支援が必要です。高齢者に対しては、無駄な検査や治療を省き、軽度の高血圧・糖尿病・脂質異常症に対しては、ドラッグストアに看護師と薬剤師を配置して医療機関の負担を軽減することも選択肢です。これには日本医師会の反発は必至で、政治家が国民に説明して官僚が実行できるかは疑問です。徳洲会のキャッチフレーズは、「いつでも、どこでも、誰もが最善の医療を」ですが、国民が公平な医療を受けるためには、「ホドホドの」医療をという方向を目指すのが現実的です。まず、高度成長の恩恵を受けた我々高齢者が、医療への幻想を捨てなければなりません。