新庄徳洲会病院

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掲載日付:2019.12.05

【山形】「敗戦処理はエースの仕事」‐笹壁弘嗣・新庄徳洲会病院院長に聞く◆Vol.2

 山形県新庄市にある新庄徳洲会病院は、最上医療圏で唯一の民間病院として、急性期から慢性期までを担当している。最上医療圏における医療人材の確保やメディカルスタッフの活用などについて、新庄徳洲会病院院長の笹壁弘嗣氏に話を聞いた。(2019年10月8日インタビュー、計3回連載の2回目)

――新庄徳洲会病院は「徳洲会の中でも1、2を争う人材不足」とのことですが、人材の確保についてはどうお考えでしょうか。

 当院の職員数は約300人で、このうち医師は常勤が5人、非常勤が約5人(常勤換算数)です。とても足りているとは言えませんが、そもそも徳洲会全体が医師不足ですし、そのうえ山形県の医師配置は独自のシステムで、蔵王協議会が調整しています。ですから、大学などに医師の派遣を直接依頼することができません。最上医療圏は山形県の中でも一番のへき地ですし、なかなか来たいと思っていただけないのが現実です。こんな状況のなか、4~5年前に研修医時代の同期が来てくれたことは非常に有難かったです。

 人材確保としてわれわれにできることは、60代で定年を迎えた職員に「隠居せずに一緒に仕事しようぜ」と声をかけていくことです。戦力として最も頼りになるのは彼らだと思います。また、週に1日でもいいから非常勤で継続的に来てくれる人たちで、うまくやりくりしていくしかないですね。「医師がいなくてもできる医療」をどれだけ追及できるかが鍵です。

――「医師がいなくてもできる医療」とは?

 例えば、褥瘡です。この地域にはひどい褥瘡の高齢者が見つかることが結構あるのです。寝たきりになって放置されていたりして、なかには褥瘡が直接の原因で亡くなられた方もいらっしゃいます。このような状況を見て、看護師から「なんとかしないといけない」という声が出てきました。それなら、ぜひやってくださいということで、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)の資格を取り、特定行為の研修も受けてもらいました。

 それから10年ぐらい経ちますが、今ではWOCナースの八鍬恵美さんが完全に仕切っています。院内や施設などに出張に行って公演もしていますし、当院で一番アカデミックな人かもしれません。地域の褥瘡管理のレベルは彼女の力で上がっていると思います。すごくよく頑張ってくれていて、本当に立派です。



新庄徳洲会病院のWOCナースである八鍬恵美氏

 このように医師が不足している地域であっても、それなりに能力や熱意があって、責任感もあるメディカルスタッフがいるんです。この方々に活躍してもらうことが、地域医療を支える力になるはずです。

――メディカルスタッフの力を存分に発揮していけば、医師不足をカバーできると。

 そもそも、へき地で「最先端の医療ができます」というアドバルーンを上げるのはアンフェアだと思うのです。僕らの陣容でもできることを提供する、それが礼儀だと思います。ここで最先端の心臓の手術ができるようにしたって、年に何例あるでしょうか。それなら地域の高齢者が現実に困っていることをいかに手助けするかを考えた方がいいです。

 これからは多死社会ですよね。言い方が適切でないかもしれませんが、死にゆく人をどれだけうまく死なせてあげられるか。これこそ、今後の医療が避けて通れないことです。医療費の面からも、まずやらないといけないことは、過剰な医療を見直し、無駄な検査・薬・手術を止めることだと思っています。

 この地で医療を提供するということは、いわば「敗戦処理」のようなものです。地域が縮小していく、それは現実として受け入れるしかないですし、そのなかで自分ができることを考えていくしかありません。敗戦処理なんて誰もやりたくないですが、誰かがやらないといけない大事な仕事です。むしろ「敗戦処理はエースの仕事」だと思っています。私自身はエースではないと思いますけど(笑)。


◆笹壁 弘嗣(ささかべ・ひろし)氏

宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)を1984年に卒業し、天理よろづ相談所病院、茅ヶ崎徳洲会病院、千葉徳洲会病院、羽生総合病院などを経て、2005年より新庄徳洲会病院に入職し、現在に至る。日本外科学会専門医。


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