新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.12.30

Vol.205 専門家の意見はなぜこれほど違うのか

 新型コロナに関する話題が連日メディアを賑わせていますが、専門家の意見が大きく異なることが珍しくありません。メディアの意向に沿ったことを言うために雇われた似非専門家がいることは否定しませんが、テレビでは視聴率を上げることが至上命題なので、新型コロナの恐ろしさを誇張したり、科学的な検証よりも視聴者受けしやすい悲劇的物語や感動的物語を作り上げるために、発言の一部を切り取られて意図したこととは異なることを伝えられることもあります。

 医学は未知の領域が多いだけでなく、特に臨床医学は、数学や物理学に比べて遥かに曖昧さが入り込みやすく、最も非科学的な科学と言えます。臨床医学は、観察して仮説を立て、実験して考察するということを繰り返しますが、仮説の立て方は十人十色で、同じ現象からでも異なる考察が生まれます。したがって、臨床医学に関する限り、異なる意見が出るのはある程度はやむを得ないのです。まして今回は、ウイルス学・感染症学・呼吸器内科学・免疫学・公衆衛生学・疫学・獣医学など様々な専門分野が関わっており、自分の分野は得意だが、その他のことはそれほど分かっているわけではないという人も多いはずです。

 PCR検査を例に取ると、この検査はウイルスの遺伝子の一部を検出するだけで、ウイルス感染の診断に用いてはならないと発信している専門家がいる一方で、日本国民全員に2週間毎に検査を受けさせることが収束への近道と訴える専門家もいます。私はこれまでも述べたように後者の意見には反対です。前者の訴えはやや過激ですが一理あると思います。PCR検査はウイルスの遺伝子の一部を倍々に増幅させて検出するのですが、何回増幅させるか(これをCt値と言います)という問題があります。世界的には35回位が妥当とされていますが、我が国では40回を目安にしています。40回増幅させると遺伝子は約1兆倍になり、感染性のない僅かな遺伝子も陽性と判定してしまうことがあります。春にプロ野球選手がPCR検査で「微陽性」と判定され休業したことがありました。偽陽性は聞いたことがありますが、微陽性は初耳です。おそらく40回以上増幅してようやく陽性と判定されるほどの微量な遺伝子があったのでしょう。Ct値については最近国会でも取り上げられましたが、混乱の原因は、どれくらいのCt値を設定しているのか、これまで何回で陽性になった人がどれくらいいるのか、40回で陽性になった人の重症・無症状の割合などの情報を国が公開していないことだと思います。様々な意見が乱れ飛ぶことの大きな要因の一つはこのようにデータをオープンにして冷静に議論しないことが根底にあるように思います。

 もう一つややこしい問題は利益相反です。例えば、検査や治療が普及すると利益を得る人の発言はある程度差し引いて考えなければなりません。PCR検査が診断の標準検査であるという根拠となった論文の著者の中に、検査会社と繋がりがある人がいたことが知られています。スポーツで言うと一方のチームの監督が審判を兼ねているようなものです。我が国で具体的にそれがあるのかはわかりませんが、そういう可能性もあるので、一人の意見を盲信しないほうが無難です。

 このようなことを理解する能力をリテラシーと言うのでしょうが、リテラシーを持つことは非常に難しく、一応医学的知識はある私も自信がありません。私は、おそらく高齢者の医療に関しては手術から看取りまでかなり経験がある方だと思いますが、たいした専門分野もなく、35年以上臨床だけやっている並の医者です。これまで新型コロナに関していろいろな発言をしてきましたが、主に地域住民と病院職員を対象にしています。間違っていることもあるでしょうが、偉い専門家の先生方と違って世間への影響力がないのは幸いです。もちろん利益相反もありません。

掲載日付:2020.12.16

Vol.204 安易な休校には反対

 新型コロナの感染が広がり、私の近隣の中学校にもPCR検査陽性者が出たために、その翌日から一斉休校になりましたが、連休の直前であったため、実質2日で再開されました。10代への感染も全国的に広がり、各地で同様の措置が行われているでしょうが、休校の感染抑制効果と社会への悪影響を慎重に比較する必要があります。今のところ10代の検査陽性者は13000人弱で、死亡者は0、重症者は1で、死亡・重症はもちろん陽性者数も他の年代を大きく下回っています。現状で陽性者が一人出ただけで一斉休校が必要でしょうか。

 我が国は季節性インフルエンザでも学校閉鎖や学級閉鎖が行われる数少ない国の一つですが、流行の程度や致死率により地域ごとに決めるべきであると考えられています。2009年の新型インフルエンザの際に関西で行われた大規模な学校閉鎖では、経済的損失もさることながら、風評被害が大きく、子供たちが教育の機会を奪われることに見合う利益は少なかったと厚生労働省も総括しています。インフルエンザのように小児が罹患しやすい病気でも、休校の効果は限定的と考えられています。前政権は2月末に全国の小中高等学校に一斉休校を要請し、3月初めからほとんどの地域で実施されました。この時点で、新型コロナはインフルエンザに比べて子供の感染が少なく、重症化はほとんどないことがわかっていたことを考えると、流行地域から始めるのであればまだしも、検査陽性者が出ていない地域にまで広げたことは愚策というより暴挙と言えます。

 日本小児科学会では、小児の新型コロナに対する知見を以下のようにまとめています。「①小児が占める割合は少ないが、その割合が増えてきた。②学校や保育所におけるクラスターは起こっているが、社会全体から見ると多くなく、多くは家族からの感染である。③小児は成人と比べて感染しにくい可能性が示唆された。④ウイルスの排泄量は、成人と同程度である。⑤成人例と比べ軽症であり、死亡例はほとんどない。⑥ほとんどの小児例は経過観察または対症療法が選択されている。⑦小児では抗体が検出されるようになってもウイルスの排泄が続いていることがある。⑧海外の数理モデリング研究や系統的レビューでは、学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しい可能性が指摘されている。⑨教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖や大人(養育者)のストレスが小児の心身に影響を及ぼしており、流行による周りの環境変化に関連した健康被害が問題となっている。」新型コロナによる休校でも、学校へ陽性者を教えろという犯罪級の非常識な問い合わせがありました。この機会にオンライン学習の環境を整備するのはよいことだと思います。学校を地獄と感じ不登校を続けたほうがよい子供たちが、学ぶ機会を失わずに済む手段にもなります。しかし、多くの子供達は触れあって、じゃれ合いながら大人になるのです。その機会を奪うことのリスクに見合うような伝染病とは到底思えないのです。

 文部科学省のホームページには、「学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。」とあります。二類感染症である新型コロナは、基準が定められているインフルエンザよりも厳しく運用されています。家庭内で高齢者への感染源になることも、大人よりは少ないことを考えると、大学生も含めて若者には規制をかけるべきではありません。現状は想定内のはずで、休校という手段以外に対策ができていないとしたらそれは怠慢です。休校を指示するのは「学校の設置者」ですが、市立学校であれば、市長・教育委員会・学校長の3通りの解釈ができるそうです。実際どういう指示系統で行われているかは知りませんが、大人の責任逃れの目的で実施されることがないことを祈ります。それが高度経済成長の恩恵に預かってきた我々の世代が、若者に果たすべき責任ではないでしょうか。

掲載日付:2020.12.02

Vol.203 GoToトラベルと医療崩壊

 新型コロナのPCR検査陽性者が急激に増加し、「GoToトラベル」と「医療崩壊」が話題になっています。人の移動や接触は感染を広げる要因ですが、7月下旬から4ヶ月経っていることを考えると、気温と湿度の低下が主な原因だと私は考えます。南半球のオーストラリアは、今年前半は人口10万人当たりの死亡者数が日本よりもずっと少なかったのですが、7月中旬から9月上旬までに約8倍に増加し、日本の2倍以上になりました。その後あたたかくなってからは横ばいの状況です。我が国の死者は今後増加する可能性が高いと思います。

 冬に感染が拡大することはかなりの確率で予想されていました。経済政策であるGoToトラベルは、感染拡大に際して「やる」か「やめる」かの二者択一ではなく、いろいろな修正プランが用意されていなければなりません。例えば星野リゾート代表の星野佳路氏の「繁忙期の補助率を下げる」や「補助率が大きすぎるので縮小する」などの提言は、密を避けるには有効と思います。個人的にはGoToトラベルは利用する気はありませんが、人の集中を避けるためには一斉に休暇を取る習慣をやめるべきです。金持ちの外国人に媚びを売るインバウンドに頼らないきっかけとして、この騒ぎを捉えて、自国民が近場へ旅行することを推奨すればよいとも思います。

 陽性者数の少ない地域で医療に携わっている臨床医歴35年の爺医には、1000万人都市である東京の医療体制が、50人程度の重症者で崩壊するとは肌感覚としてイメージできません。東京の「重症」の定義は他の地域と異なり、人工呼吸器や人工肺(ECMO)を使用している患者に限られています。東京だけが異なる基準をもつことはデータを比較する上では不都合なのですが、他の自治体は、病状に関わらず集中治療室(ICU)に入っている患者を全て計上しているので、新型コロナ患者をまとめてICUに収容する病院の軽症者が含まれてしまいます。この点では小池都知事が正しく、全国の重症者数400人超というのは割り引いて考えなければなりません。

 欧米の感染再拡大は深刻で、例えばフランスの重症者は我が国の約10倍です。人口が約半分なので医療負荷は20倍と考えられます。我が国はICUの病床が少ないと言われていますが、急性期病床を含めると人口あたりの病床数は世界一です。急性期病床で人工呼吸器は普通に使用されているはずです。人工呼吸器を扱える医師は少ないという指摘も的外れで、今では臨床工学士が医療機器の管理までしてくれることを考えると、日本の救急医療体制が貧弱とは思えません。

 医療崩壊は、新型コロナに限らず、救えるはずの命が救えず、重症化しなくてよい人が重症化することだと思います。医療崩壊が本当に迫っているのであれば、新型コロナを特別扱いすることをやめるべきです。インフルエンザの1/100の患者数、1/5程度の関連死亡者数の病気に対して、どのように向き合うのが適切かを冷静に考えるべきです。確かに重症化率はインフルエンザより高く、突然に重症化することもあるようです。しかしこのような患者は発症後時間が経っており、感染そのものよりも免疫の暴走と呼ばれる現象が起きているので、他の人への感染力は弱くなっていることが多いとも言えます。無症状はもちろん軽症でも入院は不要で、悪化したときに迅速に医療機関に掛かる体制づくりは、もともとは整備されていたはずです。そうすることで不幸な転機を取る人はいるでしょうが、そうしないことで起こる不幸が勝ると判断したら速やかに二類感染症に準じた扱いを中止すべきです。ロックダウンなどの厳しい措置は、感染を遅らせることはできても、収束させることはできません。この病気は長く続きます。過度に恐れず軽視もせず、地道に感染予防を行う人が増えれば、簡単に我々の社会は崩壊しないはずです。

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