新庄徳洲会病院

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掲載日付:2016.07.15

Vol.132 週刊誌の取材へのお答え

 先日、東京の大手出版社の週刊誌記者を名乗る人から電話がありました。病院のホームページでも公開しているこのコラムを読んで取材したいとのこと。その週刊誌が1ヶ月以上前から医療関連の話題を特集していることは新聞の広告で知っていましたが、医者に勧められても飲んではいけない薬や手術をリストアップしている医療否定記事で、やや偏った内容です。

 取材の内容は、30代の有名人の乳癌が話題になり、若年者でもマンモグラフィーを受けるべきという風潮があるがそれについての反対意見をというものでした。昨年の11月号で述べたことですが、マンモグラフィーを受けて得する人ー癌が見つかる人ではなく、癌で死ななくなる人ーはごく僅かしかいないわりに、精密検査を受ける人が増えることによる過剰な医療や、放射線の被曝量もバカにならず、少なくとも無症状の若い人には勧められないというのが私の意見です。ただ、自分の意図を十分に伝える自信がなかったので取材は丁重にお断りし、私のような無名の医者でなく、その道の権威の意見をお尋ねになったほうがよいと、数人の著名人の名前を挙げておきました。

 医療の特集を組むと売上が伸びるようで、ライバル誌はその記事の間違いを指摘する特集を早々に組んでいます。彼らは売上部数を伸ばすことが最大の関心事であるため、問題への検証が甘くなりがちです。現状の誤りを正すのはよいことですが、医療には正解が一つではないことが多く、正解がないことも珍しくありません。また、正解と思われていたことが簡単に覆ることもしばしばです。不要な医療と必要な医療の境目は、時代と社会により変わり、医療レベルと経済状態から総合的に判断するしかありません。お金のことを全く考えずに医療を行うのは、お金のことだけを考えて医療を行うことと同様に愚かです。

 日本の医療は問題を抱えているとはいえ、システムは整っており、レベルも低くありません。したがって、今のシステムをどう運用したらよいかを考えるべきであり、政治家が好きな「抜本的な改革」は不要です。医療費などの社会保障予算の使い道が厳しく問われる現代では、優先順位が重要です。寝たきりの意識のない超高齢者を生かし続けることが上位に来ないことには異論がないでしょうが、無症状の人が癌検診を受けることも上位に来ないはずです。58歳の私は一度も癌検診を受けたことはなく、これからも受けるつもりはありません。賢い選択には知識と判断力が必要ですが、最後にものをいうのは覚悟のような気がします。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第793号 平成28年7月15日(金) 掲載

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