新庄徳洲会病院

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掲載日付:2016.01.15

Vol.126 医師過剰時代の医師不足

 我が国の人口10万人あたりの医師数は平成22年で約230人、これは経済開発協力機構(OECD)加盟国34カ国中26番目と下位に位置しています。都道府県別では、山形県は221.5人で28位、ベスト3は徳島・京都・東京で約300人、ワースト3は埼玉(148.6)・茨城・千葉です。最上地域に限ると137.6人で、村山地区の半分、最下位の埼玉県をも下回ります。当地は医師が少ない日本の中でも特に少ない地域と言えます。

 今年度の医師国家試験合格者数は7820人、毎年7500人以上の医師が誕生しています。医学部の定員増や新設により、今後も医師数は増加します。加えて人口減少によって、人口あたりの医師数は増加傾向が続き、数の上で医師不足が解消される日は遠くないでしょう。

 一方、歯科医師は供給過剰と言われています。歯科医師免許の取得者10万人、医師免許取得者30万人、日本内科学会の会員数10万人という数字からは、歯科医過剰の感は否めません。少子化と虫歯予防対策により歯科の需要は減少しており、年間の廃業件数が1600件あるのも過当競争の反映でしょう。矯正歯科が増えたのもうなずけます。昨年の日本歯科医師連盟の迂回献金事件の背景にはこうした歯科業界の危機感があるのです。

 医師数が充足しても、地方の医師不足は解消困難です。医療過疎の指標の一つである無医地区は全国的に年々減少しています。これは都市への人口集中と交通網の整備が原因です。東北地方で唯一無医地区がないのが山形県です(平成26年10月)。当地に高機能病院を維持させるために医者を集めることは至難の業で、経営も赤字は避けられません。目指すべきは、身の丈にあった病院を中心とした医療介護施設群を作ることです。

 医師不足の本質は、医療を提供する側と受ける側の双方が、過度の専門化を求めていることです。偏差値の高い順に医学部へ進んだ若者は、より専門化された道へ進むでしょう。狭い専門境域で殻に閉じこもっている方が、自己の欲求が満たされやすく安全です。殻の外へ出ても高い報酬を得られることはありませんが、責任は重くなり、一つ間違えば医療過誤で訴えられかねません。一方、医療の受け手も専門家の医療が最善と考え、消費者として要求する人の割合が増えてきました。人間は心身ともに複雑系で、臓器の寄せ集めではありません。医療者が守備範囲を狭めることで生じる隙間に、弱者から順に落ち込んでいるのが現状です。医療被害を最小限にする努力をしながら、責任の輪を少し広げるような医療を行い、患者と家族はそれを受け入れる寛容の精神を持たなければ、医師不足は永遠に解消されません。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第781号 平成28年1月15日(金) 掲載

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