新庄徳洲会病院

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掲載日付:2015.05.15

Vol.118 田中先生!、それはダブルスタンダードでしょ

 昨年11月に開院した神戸国際フロンティアメディカルセンターで生体肝移植を受けた複数の患者が死亡しました。理事長兼院長である田中紘一京都大学名誉教授は生体肝移植の大家です。移植を受けた患者(レシピエント)7人中4人が術後30日以内に死亡しています。死亡率だけで医療の質を判断することはできませんが、後に行われた日本肝移植研究会の検証で、1例は移植適応なし、2例は術前術後管理が不十分と指摘されています。レシピエントだけでなく、臓器提供者(ドナー)にも問題があります。1人は術後に肝臓の血管に血栓ができたため2度の手術を受け、現在も入院中です。別のドナーは術前に肝臓の中の胆管に狭窄があることを見落としていました。インドネシア人の兄弟間で行われた移植では、高度な脂肪肝が移植に用いられレシピエントは死亡しています。このケースは、先の日本肝移植研究会もドナーに移植適応なしと結論しています。ドナーもレシピエントも順調にいったのは7組中1組に過ぎません。

 2006年に宇和島徳洲会病院で行われた修復腎移植(当初は病腎移植と呼ばれていました)が問題になった時、日本移植学会の理事長であった田中氏は、米国学会での修復腎移植の発表を阻止し、病気のある臓器を移植することは非倫理的であり絶対に承認できないと糾弾しました。病的な部分を取り除き健常な部分を移植する修復腎移植と異なり、高度な脂肪肝を用いた移植はまさに病肝移植です。説明責任も果たさないこの姿勢は、究極のダブルスタンダードです。氏を気遣ってか、日本移植学会は一貫して沈黙しています。

 スタッフは、73歳の田中氏以外に移植医が卒後14年の2人のみ、消化器外科医と消化器内科医も卒後15年以内で、感染症内科医は非常勤で、腫瘍内科医不在、放射線診断と病理診断は外注という状況です。老外科医と少数の中堅医師では、術前の評価が甘く、術後管理が不十分になるのは当然で、開設が許可されたことに違和感さえ持ちます。

 この病院の土地所有者は神戸市で、建物は三井物産からのリースです。これは官民一体となって推進している「神戸医療産業都市構想」との関連があります。アベノミクスでは医療を経済成長戦略の柱の一つに捉えて、医療法が厳密には適応されない地域(医療特区)を認定しました。これが病院開設を強力に推し進めたのです。行政と移植の大家と大手商社の利害が一致した医療現場で起きた日本の医療の未来を暗示する事件です。三井物産は2013年にシンガポールでも移植病院を作り、田中氏を招聘しています。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第765号 平成27年5月15日(金) 掲載

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