新庄徳洲会病院

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掲載日付:2015.04.15

Vol.117 健康な人の保険料は安くすべきか?

 1月28日に行われた神奈川県健康・医療分科会で、黒岩祐治神奈川県知事は、運動など健康的な行動をしている人には保険料を安くするといった保険料の差別化案を示しました。分科会後に会見した小泉進次郎内閣府大臣政務官は「これまでの日本の医療は健康な人にとってのメリットがない。これからは健康になればメリットがある、という方向性を示していくのが大事だ」と話し、黒岩案を後押ししていく考えを示しました。日本国民には、生涯にわたって自らの健康状態を自覚し、健康の増進に努める責務があると、健康増進法第二条で規定されているので、責務を果たしている国民には褒美をやるということですが、裏を返すと非国民には罰金を課すということです。

 民間の生命保険や自動車の任意保険がリスクを細分化して保険料を差別化すると、負担が減ったと喜ぶ人いますが、保険会社はその保険料でも十分に利益があるのです。低リスクの保険料を安くしているのではなく、高リスクの保険料を高くしているという見方は間違っていないと思います。このようなことが許されるのは、保険会社が営利企業であり、今の日本では必要不可欠なものではないからです。

 アベノミクスでも、医療分野で新たな産業活動を創出して、経済成長に活用するという方針を示していますが、医療は経済を活性化するものではなく、共同体の土台を支えるものだと思います。国民に健康を維持するための努力を求め、喫煙や肥満などの健康を害する可能性が高い者に罰則を与える、その目的が経済成長というのはあんまりではないでしょうか。

 公的な医療保険制度とは、みんなで資金を出し合い、健康上の不測のリスクを回避するシステムです。日本では、一定額までは所得に比例して保険料は高くなりますが、国民皆保険制度がない米国では、所得が多い人ほど、民間の保険料は安くなることさえあります。健康な人は、保険料を収めるだけで、特に得るものはありませんが、保険制度の意義を考えるとそれは当然のことなのです。私が医療分野に市場原理を持ち込むことに反対するのは、それが行き着く先が現在の米国社会だからです。そこで実質的に医療をコントロールしているのは政府ではなく民間の保険会社です。このような政策は健康人には支持されるでしょうが、大きな病気や怪我はいつ誰に起こるか分からないのです。知らない間に弱者になっていることが起こるのが格差社会なのです。このままでは健康保険証の色がゴールドからブラックまで細分化される日が近いように思います。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第763号 平成27年4月15日(水) 掲載

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