新庄徳洲会病院

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掲載日付:2013.09.28

Vol.89 徳洲新聞 直言

 山形県の内陸部に位置する豪雪地帯であるこの地に、家族連れで赴任して9年が経ちました。医療圏は香川県に匹敵する広さですが、人口は8万3000人、減少率は5年で7%を超え、10%を超える村も3つあります。454床の県立新庄病院が基幹病院としてありますが、一般病院は当院と2つの町立病院だけです。

 赴任間もない頃に県立病院の医師から「徳洲会はブラックボックスなんですよ」と言われたのが印象的でした。当時は開院から5年過ぎていましたが、最新医療を喧伝しても、継続できない状況を地域の人はそのように見ていたのです。当然ですね。グループ内外の医師の協力を得て、何とか法定医師数の7割を維持している現実から目をそらさず、多くの真面目でフレンドリーな職員を前にして、考えたのは二つのことです。

 まず、ブラックボックスを解消すべく病院の中身を可視化し、周辺の医療機関と連携すること、次に、医師不足を弱点と考えないことです。本来の院長の仕事は、医師の充足のため全国を駆け回ることですが、 大学と無縁で、人見知りで性格の暗い私には、医師を集める人脈も患者さんを集める特殊な技術や能力もありません。ただ、我々の病院では、医者が多い病院にありがちな諍いが起こることはありません。これをプラスに考え、性に合った内向きの仕事に専念することにしました。当然売り物は、医師への依存度が低い医療にしなければなりません。

 この2つを基本として、以下の3つを柱にすることにしました。①開院以来やってきた血液透析・慢性期医療・できる範囲の急性医療を継続する。②他の医療機関でやっていないことへの取り組みとして、回復期リハビリ病棟を開設し、歯科口腔外科を充実させる。③私でもできそうな地味な医療である在宅医療と褥瘡(床ずれ)対策に励む。この三本柱を10年で地域に定着させるという目標を掲げました。

 中でも、褥瘡対策は需要がありそうでした。多職種が参加して、治療効果が目に見えるので、士気も上がりやすいと考え、早速とりかかりました。まず、褥瘡に限らず入院患者さんの全ての創傷を対象に週に一度の回診を始め、各自がバラバラに行っていた評価と処置を統一するためにマニュアルを作成することを当面の目標としました。そのため、旧知の皮膚・排泄ケア認定看護師に、講義を依頼し、さらに回診にも参加してもらいました。

 そんなある日一人の患者さんが入院してきました。高齢の寝たきりの女性で、お尻の褥瘡が巨大な潰瘍を作り、何と仙骨(お尻の背骨)がほとんど融けてなくなっていたのです。治療らしいこともできないまま2日目に亡くなったことに、私以上にショックを受けたのが看護師の八鍬恵美さんでした。このような悲惨な患者さんを二度と見たくないと強く思ったようです。マニュアルを作り上げ、褥瘡の治療や予防に必要なマットレスを整備した彼女は、認定看護師になると決意しました。まだ徳洲会の支援制度がない中で、幼い二人の子供さんを抱えながら、6ヶ月間仙台の大学で教育を受け、2009年には念願の皮膚・排泄ケア認定看護師の資格を取得しました。以後の褥瘡対策は彼女がリーダーとなり進めてくれています。まさに新庄の”ハンサムウーマン”です。

 院内活動だけは褥瘡は予防できないと考えた彼女は、周辺の介護施設に出向いて繰り返し講義を行い、行政やケアマネージャーにも働きかけ在宅医療へも活動が広げました。 今年には「床ずれ110番」を開設し、電話一本で褥瘡の相談に出来る体制を作ってくれました。 その活躍は県内でも評価され、2012年には山形県在宅褥瘡セミナーの当番世話人を任されるまでになりました。最近では開業医の訪問看護ステーションにも同行するようになっています。褥瘡対策は当院の生命線の一つですが、彼女が専従でなければできません。深刻な看護師不足の中で、わがままを聞いてくださる大友看護部長には感謝しなければなりません。

 褥瘡対策に限らず、当初掲げた目標は亀の歩みではありますが、実を結びつつあります。これも皆、地道な活動を続けてくれる多くの職員のお蔭です。私は「分相応」という言葉が好きです。徳田虎雄理事長の「努力努力また努力…」とは相容れない考え方かもしれませんが、私のような異端児を院長に選んでくださった理事長には、心から感謝しています。まだまだ道半ばです。自分にあったやり方で、皆で頑張りましょう。

院長 笹壁弘嗣
平成25年9月23日(月)

掲載日付:2013.09.15

Vol.88 日本人の9割以上がビョーキ?

 日本人間ドック学会から2012年に人間ドックを受けた316万人のうち、全項目に異常がなかった人は過去最低の7.2%だったという発表がありました。一般に、検査の基準値(いわゆる正常値)は健常人の95%が含まれる範囲をさすので、8項目全てが基準値内に収まるのは健常人でも0.95の8乗、つまり66%になります。32項目では約20%になってしまいます。全てに異常がない人を学会では「スーパーノーマル」と呼んでいることからわかるように、正常を超えた人間ということなので、少しくらい異常値があっても健康と言えることは多そうです。

 人間ドックが始まって60年になりますが、学会が統計を取り始めた1984年には全項目異常なしは29.8%でした。この間に平均寿命は男女とも5歳くらい伸びているので、日本人は健康になったと言えます。健康になったのに異常値が増加したというのは、一見矛盾する現象です。

 高血圧の基準は、1984年では収縮期(上の)血圧は160より高いものでしたが、現在では140以上とかなり厳しくなっています。昔は高血圧でなかった人が今では高血圧ということになります。そもそも高血圧自体が病気というよりも、血圧が高いと心筋梗塞や脳卒中になりやすいので、高血圧という病名を作ったと言うべきでしょう。糖尿病や高コレステロール血症も似たようなものです。血圧も血糖値もコレステロール値も正常と異常がはっきりと別れるものではないので、連続している数値に人為的に境界線を引く作業が必要なのです。

 糖尿病は健診を受ける意義がありそうですが、昨年ランセットという雑誌に発表された論文のように、2型糖尿病(よくあるタイプの糖尿病)のリスクが高い人が糖尿病検診を受けても、検診を受けない人に比べて死亡率は少し高くなるという驚くべき結果もあります。診断が適切か、治療を受けるべきか、どのような治療が適切か、などなど医療の世界は不確実なことがあまりに多いのです。

 どんな健診も目的を明確にし結果を活用しなければ意味はありません。そのためには皆さん自身が賢くなる必要があります。賢くなるにつれてどうしていいかが簡単に決められないことがわかるはずです。医者も正しい答えを知らないことが少なくありません。「難しい問題ですね。よくわかりませんが…」と自信なさそうに言う医者は患者さんから信頼されにくいですが、実は誠実なのかもしれません。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第725号 平成25年9月15日(日) 掲載

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