新庄徳洲会病院

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掲載日付:2012.08.15

Vol.75 「こころの病」が増えた本当の理由-新型うつ病について-

 うつ病が増えています。2008年の厚労省の調査では100万人を超え、10年間で2.5倍になっています。特徴は、古典的なうつ病は横ばいである一方、「新型うつ病」などのうつ状態になる病気が増加していることです。新型うつ病の患者は、「上司に叱られた」とか「彼女にふられた」とかの日常的な出来事をきっかけに抑うつ状態になり、「気分が落ち込んだ」「やる気がでない」と訴えて心療内科や精神科外来を受診し、その多くは「気分が良くなる薬がほしい」と訴えます。仕事はできないが、遊びや旅行にはいけることも特徴です。

 精神科医である中嶋聡氏は、著書「新型うつ病のデタラメ」で、新型うつ病が生まれた原因を三つ挙げた上で、その問題点を指摘しています。

 まず、精神疾患の診断がDMS(1980年代に米国で開発された症状に基づく診断基準)によって定型化されマニュアル化したことが挙げられています。DMSにより誰もが同じ診断が下せるようになりました。これは行政や保険にとっては便利なのですが、 専門性が軽んじられることも起こります。実際の裁判で専門医の診断が否定された事例もあります。

 次に、SSRIと呼ばれる新しい抗うつ剤の登場です。それまでの薬より副作用が少ないので、精神科以外の医師が気軽に処方できるようになりました。製薬会社は医師に対しては強力な売り込みを行い、一般人に対しては人気タレントを使ったコマーシャルで「あなたもうつかも?」「でも簡単に治ります」というメッセージを広めました。この薬が日本で認可されたのが1999年で、この年以降うつ病が急激に増えていることを考えると、大きな引き金になったと言えます。

 最後は日本人の精神力の低下です。大人になるということは、対人的な経験を積み、辛い思いをして揉まれることによって自己愛を克服し、徳や仁を身につけることでした。それが、いつまでも自己に過剰に意識が向くために、傷つきたくないあまり安易に逃避してしまうようになったということです。

 このような風潮は、軽症のうちに医療機関を受診するという利点もありますが、社会的弊害を生んだのも見過ごせません。簡単に休職し、傷病手当金や障害年金を支給され、様々な負担が免除されるなどの問題が生じています。どこか生活保護の不正受給問題と似ていますね。本当に救われるべき人が、そうでない人の中に埋没してしまうことにならなければよいのですが。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第699号 平成24年8月15日(水) 掲載

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