新庄徳洲会病院

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掲載日付:2012.04.15

Vol.71 今、甲状腺癌の検査をする意味

 「衝撃スクープ、郡山の4歳児と7歳児に甲状腺癌の疑い!」、これは週刊文春3月1日号の見出しですが、衝撃を受ける必要はありません。というのは、被曝の影響で甲状腺が起こるのは数年先だからです。この記事は取材段階からかなり問題があり、情報源とされる開業医も事実に反する内容であるという記者会見を開いて抗議しています。

 確かに甲状腺癌は放射性ヨウ素により増加することがはっきりしています。放射性ヨウ素は、今回の原発事故で大量に放出されました。おそらく数年後には被爆者の間で甲状腺癌が増え始めるでしょうが、今の段階で見つかったものは原発事故とは無関係です。

 甲状腺疾患の診断には、触診・超音波検査・甲状腺ホルモンなどの採血検査がまず必要です。今回の子供さんは超音波検査で小さなしこりが見つかったので、専門医による評価が必要と判断されました。最近は超音波検査機器の性能が向上したので、小さなしこりはかなりの頻度で見つかります。実際今回の検査でも小さなしこりは約20%の子供に見つかっているそうです。しこりが見つかっても、癌であることのほうが稀なのですが、最終診断には細胞の検査が必要です。胃や大腸の癌は内視鏡で細胞を採取することができますが、甲状腺は針をさすか手術が必要です。そのため癌の疑いが少ないときは、細胞の検査はせずに少し時間をあけて超音波検査をすることが多いのです。この二人も、癌の可能性はほとんどないとされています。

 つまり、今の段階で甲状腺を調べる意味は、いつ頃から癌が増え始め、どれくらい発生するかの、元になるデータをとることなのです。疫学調査の第一段階ということです。このような記事に惑わされないためには、わかっていることとわかっていないことをはっきりさせることが第一歩になります。

 その上で以下のようなことも知っておくのはよいかもしれません。①被曝の影響は小さな子供ほど受けやすい。②もともと子供の甲状腺癌は非常に稀である。③大部分の甲状腺癌は悪性度が低く、チェルノブイリ原発の事故当時18歳未満だった者に約4000人が発症したが、亡くなったのは9人(生存率99%)だけ。④放射性ヨウ素は分解されやすいので、新たに放射能漏れが起こらない限り、今後は食品などによる内部被曝に気をつければよい。⑤個別の甲状腺癌が被曝によるものかどうかは判定できない。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第691号 平成24年4月15日(日) 掲載

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