新庄徳洲会病院

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掲載日付:2012.01.15

Vol.68 口出ししてはいけない人ほど口出しする医療改革

 この春に行われる診療報酬改訂では見送りになりましたが、生活保護医療の見直しが話題になりました。生活保護費は年間3兆4千億円と巨額なもので、その半分を占める医療扶助をいかに抑制するかということです。生活保護受給者の医療費は国が全額負担するので、医療機関で深刻な問題になっている「未収金」が発生しません。そのため、積極的に受け入れる医療機関もあり、受給者を集めて不正に診療報酬を得た事件も話題になりました。

 行政刷新会議ワーキンググループの提言型政策仕分けの席で、この問題を取り上げた民主党の仙谷政調会長代理は、「私の直感ではモラルハザードを起こしているのは患者よりも医療機関」と発言しています。この席では、なぜか外資系証券会社の代表2人も積極的に発言しており、今までのようなマイナーチェンジでは日本の社会保障が爆発してしまうので、大胆な改革が必要と述べ、生活保護受給者を受け入れる医療機関を制限するよう提言しています。

 まず、医療に関わっていない政治家が、データを示すこともなく、公式の場で「直感で」と発言することには強い違和感があります。また、「大胆な改革」という言葉には非常に危険なものを感じてしまいます。確かに生活保護費を不正に受け取っている人も、その制度を悪用している医療機関も、少ないながらあるでしょうし、それを減らす方策は考えなければなりません。しかし、不正を完全になくすことは、生活保護を廃止する以外不可能です。政治家やビジネスマンは、現状が「待ったなしの状況」であることを強調して、「抜本的な改革」を訴えますが、その成功率はかなり低いはずです。そしてもう一つ、なぜ証券会社の代表がこの席にいるのか。結局は医療費抑制を大義名分にして、医療を市場原理にゆだね、医療をビジネスチャンスと捉えているからです。

 医療や教育といった社会の根本に関わるものは、専門家が専門的知見と良心に基づいて運営管理すべきであり、その改革は破綻を来さないことを最優先にして地道に進めていくものだと思います。日本の現状は危機的で待ったなしと言うけれど、円高になるのは、世界的に見ればまだまだ機能しているからです。だからこそ、大失敗しないような慎重さが求められるのです。医療改革には、目先の選挙のことしか考えない政治家や金のことしか頭にないビジネスマンは口出ししてはいけないのです。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第685号 平成24年1月15日(日) 掲載

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