新庄徳洲会病院

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掲載日付:2026.04.22

Vol.311-2 新入職員へ-2

④二元論の危険性
 受験勉強は効率よく正しい答えを出すことが全てですが、我々が応対する問題は、答えが1つではない、あるいはそもそも答えが無いことも珍しくありません。いたずらに答えを求めるのではなく、何が問題であるかを考えることを大事にしてください。目の前にある未知なものを、すぐに正誤や好悪などの2つに分類することをせずに、判断を保留する選択肢を残してください。その問題を心に留めていると、その後に自分が成長すると、わからなかったことが急にわかる瞬間に巡り会えることがあります。成長とはちょっとしたきっかけで突然に起こるものです。考え方や行動が自分とは異なる他者に敬意と好奇心を持って接することができればよいですね。

⑤自立した大人とは
 10年くらい前だと思いますが、ある本の中に「ワンピース」というアニメの主人公であるルフィーの台詞-俺は剣術を使えねェ、航海術も持ってねェし、料理も作れねェし、ウソもつけねェ。俺は助けてもらわねェと、生きていけねェ自信がある-が紹介されていたことを驚愕しました。「ワンピース」は映画の予告編を観たくらいで、漫画もアニメも知りませんでした。このような台詞は決して私の若い頃に漫画やアニメでは見られませんでした。主人公が自分の弱さや欠点を自覚し、その上でことを成し遂げようという物語が、子供向けに造られていることを知り、日本のアニメは世界を牽引しているのも当然かという気になったことを覚えています。
 経済的・精神的・社会的に自立した人を大人と呼ぶと教えられましたが、本当でしょうか。自分が不完全なことを知ることが自立の必要条件です。そんな不完全な自分が、患者やその家族からすがられることを自覚してください。そんな重圧には耐えられないでしょう。だからこそチームプレーが必要なのです。困ったときやどうしていいかわからないときには声を上げてください、助けを求めてください。患者は弱者ですが、弱者が正しいとは限りません。医療従事者に対するハラスメントは軽視できないレベルになっています。そんな時も、一人で立ち向かう必要はないのです。
 医療界では医者が一番偉いと思われていますが、私の経験では医者が一番なのは我儘なことです。それは医者が個人プレーがかなりできるからだと思います。チーム医療の妨げになるのが医者であるのは多くの医療人が気づいているはずです。医者は単に一番責任が重いというだけで、給料が高いのは責任が重いからです。職業に貴賤はありませんが、人間には貴賤があります。

⑥非凡なる凡人を目指して
 私は、まだ平凡なる凡人ですが、非凡なる凡人を目指して生きてきました。非凡なる凡人とは、周りから必要とされる人です。特別な才能もない普通の人間がそうなるためには、良い習慣を身に付け、昨日の自分に勝つ努力を続けることです。昨日の自分に勝つために、自分よりも優れた先輩や同僚は当面の目標になります。そして一所懸命に励んでも、大きく負け越している自分を許してよいのです。私は3年間の大学受験で、9連敗の後にやっと1勝して医者になることができました。その後も、実感としては1勝3敗6分くらいの毎日です。嬉しいことや楽しいことよりも、辛いことや苦しいことのほうが多いかもしれませんが、とりあえず3年位は、頑張りすぎずへこたれないで働いてみませんか。ダメダメな私を院長として20年以上受け入れてくれて、少しずつ成長させてくれている病院なのですから、可能だと思います。偉そうなことを言っている私も、まだまだ発展途上というか年齢からは衰退途上の人間です。

掲載日付:2026.04.22

Vol.311-1 新入職員へ-1

 4月になり12人の仲間を迎え、例年のように「病院で働くということ」というタイトルでお話をしました。伝えたいことが多すぎて予定を30分も超過してしまいました。昨年の4月のコラムで紹介した「仕事上では絶対に嘘はつかないで」という話以外の内容を2回に分けて紹介します。

①明るく挨拶、感謝と謝罪
 私は当院に赴任するまでは、顔見知り以外には挨拶ができない人間でした。ところが当院では職員同士だけでなく、患者さんやその家族に対しても普通に挨拶する職員が多いことに影響され、何とか人並みにできるようになりました。挨拶は相手に届かないと何もしていないと同じなので、できるだけ自分から、目を合わせてはっきりと声を出すように心がけています。もう一つ心がけているのは、弱い立場の人ほど丁寧に対応し、名前は必ず「~さん」付けで呼ぶようにしています。些細なことへの感謝も「ありがと」や「サンキュ」と言うことや、カッとしやすい私は、自分が悪かったときの謝罪も早めにはっきり伝えるように努力しています。

②入力(インプット)・出力(アウトプット)・フィードバックの繰り返し
 仕事上に必要な知識は、読書や勉強会などを通じて自分の中に吸収することが多いのですが、残念ながら入力するだけでは定着しません。それを他者に向けて言葉や文章として出力することで知識は整理され定着します。実は、出力することは入力に勝るとも劣らず重要です。そして、出力した結果の反応を再度受け止めると新たな発見があり、真に自分のものとなります。若者にとって年長者は教えてもらう存在ですが、年長者も教えることを通して成長することが教える側になると実感できます。つまり教育とは、双方向に機能して初めて教育と言えるのです。

③自分にあった仕事?
 始めから若者が、自分の適性にあった仕事に就いて、才能を発揮し成果を上げて、満足する報酬を得ることはほぼ不可能です。やってみないと能力や適性はわからないことが多いので、とりあえずはやってみるしかありません。ある高名な外科医が「自分は一度も手術で合併症を起こしたことがない」と言っていましたが、私は合併症を絶対に起こさない方法は一つしかない、それは手術をしないことだと教えられ、40年以上の外科医の経験から自分でもそう確信しています。自分にとって好ましくないことから、実に多くのことを学ぶことができました。ただ、我々の仕事では大失敗は絶対に避けなければなりません。大失敗とは取り返しのつかない失敗のことです。自分に厳しくなるということは、謙虚な姿勢で目の前の不都合な現実に向かい、自分が関係しているという前提で考えることだと思います。失敗から学ぶことを肝に銘じてください。
 誰しも何かを始めるときには、期待と不安が入り混じっているはずです。達成できなかったときの悲しみや怒り、できたときの喜びは人を成長させます。好きなことを仕事にできる人は稀ですが、仕事を好きになることは、それほど難しくありません。好きになると夢中になり、得意になれます。何か一つでも好きになれそうなことがあればそれを大事にしましょう。まわりから褒められることで、自分の得意分野に気づくこともあります。現代社会では、時間を忘れて仕事をすることは悪で、それを強要することは犯罪とされていますが、時間を切り売りして、生活費を稼ぐために働くと、仕事はつまらなくなります。仕事は、自分のかなりの時間を費やすものなので、人生の無駄とも言えます。労働というものは、西洋では古代ギリシアの時代から奴隷がするもので、労働=苦役でしたが、我が国では美徳とされてきました。これは私たちが誇るべき民族の特徴です。時間を気にせず収入を最優先にせずに仕事ができて、私は幸せでした。

掲載日付:2026.03.25

Vol.310 iPS細胞治療の仮承認に対する疑問

 2月19日に行われた厚生労働省薬事審議会で、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の2つの再生医療製品に対して、条件及び期限付きで製造販売することが仮承認されました。一つは重症心不全に対する「リハート」、もう一つはパーキンソン病に対する「アムシェプリ」で、メディアでも期待を込めて報じられています。今回の再生医療早期承認制度では、すでに2015年に患者自身の筋肉線維のもとになる骨格筋芽細胞を培養し、円形の「細胞シート」を作成して心臓の表面に手術で貼り付けて、心臓の筋肉を保護・修復して機能を回復させる「ハートシート」が製造販売されています。約50例に試みられましたが、有効性が認められないため本承認されずに、2024年に販売も終了しました。今回のリハートは同様の細胞シートを他人から作ったiPS細胞を用いたもので、中心となる研究者は同一人物です。

 iPS細胞は、ヒトの皮膚細胞に遺伝子を導入して受精卵に近い状態にした万能細胞として生み出され、その功績により2012年にノーベル生理学医学賞を山中伸弥氏が受賞したことがきっかけとなり、広く認知されるようになりました。その後、様々な疾患の治療への応用が試みられていますが、今のところ本承認されたものはありません。iPS細胞の登場から今年で20年になりますが、政府は再生医療に10年で約1100億円の支援を行っています。これは医療分野では異例の規模です。また、従来の医薬品や医療機器とは別の「再生医療等製品」という分類を新設し、製品を迅速に実用化するために、有効性が推定されたものに「仮承認」を与える制度を作りました。再生医療が、資金と制度で破格の援助を国から受けている反面、それ以外の研究は、その犠牲になっているとも言えますが、これだけの支援を受けても、今のところ物になった治療はありません。もちろん、今後革新的なものが現れる可能性はありますが、その効果と安全性、保険診療が広く行われた際の医療費への影響の点でかなり疑問があります。

 この問題については、整形外科医である川口浩氏は以前から警鐘を鳴らしていました。氏は脊椎外科が専門で、骨や軟骨の基礎研究を臨床に応用することを目指しています。氏の指摘によると、ハートシートはわずか7例に使用されただけで仮承認されましたが、効果が乏しいばかりか、関係者は因果関係は否定していますが、仮承認中の35例で4例が死亡しています。そのような中で今回、ハートシートの後継であるリハートと神経疾患における再生医療品であるアムシェプリが市販される見通しになったことに対して、川口氏は疑念を抱いています。効果の評価が甘いことと免疫系への影響について安全性の評価が不十分なことに加えて、今回の2つの製品は、他人の細胞から採ったiPS細胞であるので、より長期的な観察が必要であると指摘しています。

 ハートシートは1枚1000万円以上しますが、仮承認されると保険適応になるので、金銭的負担は企業から国民に移ります。これまで仮承認された4つの製品はすべて本承認されていないことからもわかるように、仮承認から本承認を受けるまでが最も厳しい道のりで、その間の費用を、企業は患者と国民に押し付け、さらに利益も得ることができるのです。しかも今回の2つの製品の有効性の検証は、症例数が少ないことと対照群がない研究であることを考えると、私のような統計学の素人でも疑問が湧いてきます。iPS細胞の潜在能力は認めますが、だからこそコロナ騒動のmRNAワクチンと同様に臨床への応用は慎重を期すことが必要です。さらに費用対効果も合わせてその適応基準も検討しなければなりません。川口氏は、「世界初のiPS細胞承認」は、科学的妥当性のみならず倫理的整合性の観点からも極めて不適切であり、このままでは日本の薬事行政における最悪の暴挙として記憶されるだろうとまで述べています。


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